- 田内 志文
- 2010-07-07 (水)
- 小説
9、
後方確認し、サイドスタンドをはずし、もう一度後方確認してバイクにまたがる。バックミラーを調節し、またまた後方確認してエンジンをかける。後ろではヒロミツがもうバイクにまたがり、俺が発進するのを待っている。俺は右手を挙げて発進することを伝えると、最後にもう一度後方を確認してからギアをローに入れ、バイクを発進させた。コースは問題ない。俺は今のところ自分の胸が軽いのを感じると、ヘルメットの中でほっとため息をついた。
ウインカー、後方確認、バイクを寄せて、右折。
ウインカー、後方確認、バイクを寄せて、左折。
コースは順調に、俺の後ろへと流れてゆく。乗れている。俺の背中を見ていろ、ヒロミツ。俺はなんだか愉快な気持ちにすらなっていた。
いよいよコースも終盤に近づいてきた。坂道発進を終えたら、いよいよ課題……一本橋、スラローム、波状路、急制動が待ち受けている。俺は坂道に引かれた停止線でバイクを止めると、自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をしてから左右の後方を確認した。当たり前だがヒロミツはぴったり後ろにいる。
心の中で声に出しながら、バイクを進ませる。回転数を上げてからクラッチをつないで発進……坂を登り切ったら二速……二速に入れたら左ウインカー……後方確認……寄せてターン……。
そして一本橋。
完璧だ。俺は美しいほどまっすぐ一本橋に向かってバイクを止めた。ヒロミツは俺を追い越して橋の向こうまで一気にバイクを走らせるとそこで止め、バイクから降りて俺のほうを向いた。ヒロミツの右手が、スローモーションのようにゆっくりと挙がる。昨日のヒロミツの言葉を胸に呼び起こす。回転数を上げ、しっかりハンドルを振りながら通過すること……。本当にそれで行けるのかどうか、ぶっつけ本番に近いが、ここまで来たらやるしかない。
「よし」俺は小声でそう言うと、小さくうなずいた。
この橋はただの橋じゃない。俺に命を吹き込んでくれる、魔法の国へと続く橋だ。渡りきりさえすれば、俺にまた歓びの感情が戻ってくる。なんの前ぶれもなく、あの親不知の景色とそのときの感動が脳裏にさっとよぎった。俺はゆっくりと、ヒロミツに向かって右手を挙げると、後方確認をした。
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