- 田内 志文
- 2010-07-07 (水)
- 小説
8、
八時四十分。集合時間の十分前に教習所につくと、受付カウンターに今日のコースが貼り出されていた。一昨日と同じAコースだ。こいつはラッキーだ、と俺は小さくガッツポーズした。一度プレッシャーの中で走ったコースならば、すこしは気が楽だ。緊張していても道順を間違えたりしないことは、もう分かっている。とにかく今日は、全気力、全精神力を、一本橋まで残しておかなくてはならない。
一昨日と同じように教室で説明を受けると、プロテクターをつけてバイクの車庫の横にある教官室へ向かった。一段階の緑ゼッケンでもなく、二段階の赤ゼッケンではなく、今日はでかでかと「検定」の二文字が書かれた白ゼッケンだ。否応なしに緊張は高まる。一緒に検定を受ける教習生たちはみんな、手術室の前で友達の手術が終わるのを待っているかのような顔をして、黙ったまま椅子に座っている。
ほどなくして部屋に入ってきた今日の検定員を見て、俺は口をあんぐり開けずにはいられなかった。まさかのヒロミツだ。ヒロミツは、そんな俺の胸中を知ってか知らずか、こちらのほうなどろくろく見もせずに説明を始めた。
「えーと、今日はAコースね。満点じゃなくちゃ受からないわけじゃないから、あんまり攻めすぎないでね。今日は全部で四名。大型一名の、普通が二名。あと普通のATが一名。準備できたら大型から行くから。がんばって」そう言うと、ヒロミツは教習生たちの顔をぐるりと眺め回した。
ミーティングを終えると、俺はとりあえず煙草に火をつけてコースを眺めた。各ポイントを目で追いながら、ウインカーの位置や走行位置を確認する。その視線が、ぴたりと一点で止まる。運命の一本橋に。
「煙草吸ったら行こっか」ヒロミツが背中から声をかけてきた。俺はちょうど吸い終えるところだったので「もう行けます」と答えた。溜めれば溜めるほど、緊張がふくらんでしまいそうだ。もしかしたら、トップバッターだったのはラッキーかもしれない。流れが俺に向いているような気がしてきた。
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