- 田内 志文
- 2010-07-07 (水)
- 小説
7、
知らなかった。何で誰も教えてくれなかったんだ。俺は帰りのバスに乗りながら、視線をぼんやりと宙に泳がせていた。そういえば、俺は教官たちに「何か訊きたいことは?」と訊かれるたびに「ない」と答えていた。だからだ。俺が悪かったのだ。
そうすると、二度目の卒検を明日に控え、今日ヒロミツに当たったというのは、ラッキーだったと言わざるを得ない。他の教官だったら、もしかしたら俺はいつもみたいにフラフラと渡りきり「練習だったら渡れるのになあ」なんて思いつつ、明日の一本橋から脱輪していたかもしれないではないか。いや、むしろその公算が高い。
とにかく残念なのは、明日を迎える前にもう一度一本橋を渡れないことだ。そのセオリーを意識的にやってみて、一本渡りきってみないことことには、どことなく不安が残った。だが、もう仕方がない。やるしかないのだ。夜、布団に潜り込むと、俺は何度も何度も頭の中でAコースとBコースを走り回った。不安は一本橋だけだ。だが、この橋だけはどうしても渡らなくてはいけない。ヒロミツの言葉だけを頼りに。
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