一本橋ララバイ

  • 田内 志文
  • 2010-07-07 (水)
  • 小説

11、

 一本橋の終点あたりに落ちた丸い光の中に誰かがいることに、俺はすぐに気づいた。半袖姿に半ズボン。分厚いメガネをかけたガキがしゃがみこんでいる。俺は、バイクにまたがりハンドルを握りしめたまま、目を丸くして少年の姿を見つめた。その少年ならば、俺は知っている。見間違いようがない。

 俺自身だ……。

 少年はゆっくりと立ち上がると顔を上げ、メガネの奥から俺と目を合わせた。

「どこに行くの?」少年の俺が言った。

 どう答えていいのか分からず俺が口を開けたまま迷っていると、少年の俺はもう一度同じことを訊ねた。

「どこに行くの?」

「橋の向こうにだよ」俺は、知らず知らず答えていた。まるで他人の声のように聞こえる。

「橋の向こうに行ってどうするの?」少年は、用意していたかのように次の質問をよこした。

「さあ……」俺はまた黙り込んだ。橋の向こうも、橋のこちらも、同じ教習所の敷地内だ。

「行っちゃうの?」小僧は悲しそうに眉を寄せた。「向こうに行っちゃうの?」

「行かせてくれよ」俺も眉を寄せて答えた。「行かなくちゃいけないんだよ。合格したいんだよ」

「置いてっちゃうの?」小僧は、今度は鼻をぐずぐずさせはじめた。

「何言ってるんだよ」俺の声が、自然とさっきよりも大きくなった。「お前は俺じゃないか! 俺が落ちたらお前だって悲しいはずだろう!」

 だが、悲しげな顔をしているそいつを見ると、俺まで悲しい気持ちになってきた。なんだか、橋を渡り終えてしまってはいけないような気がしてくる。だめだ、だめだ、と俺は首をぶんぶんと横に振る。

「なあ、聞いてくれよ」俺はハンドルを握りしめ、身を乗り出すようにしてガキに声をかけた。「ようやく自分の力で橋を渡ってるんだよ。この橋を抜けたら、何かが変わりそうなんだよ。俺がお前だったころ、楽しかったよ。毎日、明日は何をしようって思いながら、わくわくして寝たものさ。でも、もうすっかり明日になんてときめかなくなっちまったんだ」

 子供の俺は、相変わらず眉を寄せたまま、上目遣いにじっと俺の顔を見つめている。俺は言葉を続ける。

「だから……だから橋を通してくれ! お前がそんな顔をしてたらさ……行けないじゃないか。行きたいのに、行けないじゃないか!」

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