ネイル・ハート

  • 田内 志文
  • 2010-04-14 (水)
  • 小説

4、

 とはいえ、ネイル・ハートの学校生活は、客観的に見て、それほど悲惨なものではなかった。他の生徒たちは彼の額の釘を気味悪がっていたわけではなく、ただ単に、物珍しがっていただけだったからだ。最初の一週間ほどは、学校じゅうの生徒たちが見に来たり、触りに来たりしていたが、その後はといえば、すこしずつ話題にすら上らなくなっていった。これが、彼に起きた本当のことだった。

 だが当のネイル・ハートにとっての事実は、またすこし——というかだいぶ——ちがった。初めての日にわいわいたかられた記憶と、最初の一週間で見せ物になってしまったという思いのせいで、すっかり自分が他の生徒たちとはちがい、珍しがられ、気味悪がられるような存在なのだと思いこんでしまったのだった。

「ねえ、その釘、本当に痛くないの?」

 最初の一週間で何度となく訊ねられたこの質問は、半年が経っても、ネイル・ハートの胸の中から消え去ってはくれなかった。

 みんな、痛くないって分かってくれないんだ——。

 彼は学校に行くときや、学校にいるときや、学校から帰るときには、そのことばかり考えていた。そして学校から帰ってから夜寝るまでの間は、翌日に学校に行くことを思い、やはり同じ気持ちになった。彼はだんだんふさぎがちになり、表情も暗くなっていった。やがて、拒食症とまではいかないまでも、食事の量もだいぶ減った。ルーパスとアイーダはその息子の様子を心の底から心配していたが、息子の悩みの種が何であるかが火を見るよりも明らかだったため、敢えてその話題には触れないようにしていた。

 だが、ネイル・ハートにしてみれば、両親が触れてくれないこともまた、つらかった。あたかも両親までもが自分の釘のことを気味悪がり、なかったことにしたがってでもいるかのように、彼には感じられていた。誰にも、釘のことなど話せはしない。誰にも分かりはしない。彼は、自分の釘のことが、恥ずかしくて、嫌で、憎くてたまらなくなった。

 その思いが我慢の限界まで近づくと、彼はこっそりルーパスの道具箱から釘抜きを持ち出した。そして自分の部屋で鏡の前に立つと、「今日こそ抜いてやるぞ」と、自分の釘に釘抜きを当てた。だが、いざすこしでも力を入れてみると、頭蓋骨が引っ張られるのを感じながら、彼はいつでもこう思う。

「でも、この釘を抜いたら、ぼくはどうなってしまうんだろう……」

 ネイル・ハートは釘抜きをそっとはずすと、鏡に映った自分の顔を、悲しそうな、不安そうな目で眺めた。どこから見てもおかしくなどない。ネイル・ハートは、生まれたときからその顔で生まれてきたのだから。

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