- 田内 志文
- 2010-04-14 (水)
- 小説
2、
四歳になっても、ネイル・ハートは幼稚園に入れてもらえない。それどころか、ほとんど外に出してすらもらえないのだ。たまに出ることがあっても妙な形をした帽子を深々とかぶらされ、釘が見えないようにされる。それはそれでひどく滑稽に見えて、道行く人たちはちらりと視線をよこしたりしたものだったのだが、両親にしてみれば、釘を見られるよりは、ずいぶん気が楽だ。
「ねえ、なんでぼくには釘が刺さっているの?」ネイル・ハートは両親にこう訊ねる。
「ほら見て」と、アイーダは自分の耳たぶを指さす。「金の輪っかがついてるでしょう? これと似たようなものなのよ」
「じゃあ、なんでお外でぼくは帽子をかぶるのに、母さんはかぶらないの?」
「それは、あなたは帽子がよく似合うからよ」アイーダは、ネイル・ハートの頭をなでる。「母さん、帽子をかぶっているあなたを連れて歩くのが、とても嬉しいのよ。だって、みんなあなたのこと見るんだもの」
ネイル・ハートは黙ったままうんうんとうなずきながら話を聞き終えると、「さあ、それじゃあ自分のお部屋で遊んでらっしゃいね」というアイーダの言葉を合図に階段を駆け上がっていく。小さな足音が階段の上でやみ、子供部屋のドアが閉まる音がすると、アイーダはソファにどっと身を沈めて、天井を仰ぎ、両目を右手で覆った。
「ああ、あたしたち、いったいどうすればいいのかしら」彼女は胸の中で言う。
とにかく、いつまでもネイル・ハートを隠しておくことはできないのだ。彼のことを心配し、行く末を案じれば案じるほど、自分ひとりが家に残って彼の世話をしているのが、なんとも不公平に思えてきた。アイーダはルーパスの留守を苦々しく思うようになり、また、以前と同じような言い争いがはじまった。
「いちどは君だって分かってくれたじゃないか」ルーパスが一生懸命に、アイーダをたしなめようとする。だが、アイーダは「あの子のこと、どうすればいいのか分からないのよ、あたし、分からないのよ!」と、ときには涙を流しながら叫ぶ。リビングの空気が震え、壁が震え、天井が震える。その天井の上では、臆病な目をしたネイル・ハートが心配そうに体を丸くして、びくびくしながらベッドで毛布をかぶっている。自分が身動きひとつすれば世界が壊れてしまうかのような、そんな気持ちで。
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