ネイル・ハート

  • 田内 志文
  • 2010-04-14 (水)
  • 小説

12、

 翌日、ネイル・ハートが目を覚ましてみると外はよく晴れていた。遠くから、犬の吠える声や、子供たちが笑う声が聞こえてきていた。顔を洗うと、まだ釘の出ていない自分の額に慣れていないせいで、なんだかおかしな気分になった。リビングに入るともうアイーダが朝食の準備を済ませているところで、食卓には、彼の大好物のパンケーキが、湯気を立てて待っていた。ネイル・ハートは甘いシロップをかけると、夢中になってそれを食べた。その様子を見ながらルーパスとアイーダは、このうえなく幸せな気持ちで胸が張り裂けそうだった。

 朝食を食べてしまうと、ネイル・ハートは着替え、外に行く用意をした。どうしても行かなくてはならないところがあった。玄関から出ていこうとする彼を両親たちは心配し、一緒に行こうかと申し出たが、ネイル・ハートはひとりで行くと言って、庭先で花を摘むと出かけていった。アリスだけが、その後ろをひょこひょことついていった。

 ネイル・ハートが向かったのは、教会の墓地だった。そこには何十という墓標が立ち並んでいた。古びて欠けているもの、苔むして傾いているもの、すっかり何と彫ってあるのか読めないほど風化してしまっているもの。その中に、まだ新しく、花が飾ってある墓標に、彼はそっと歩み寄った。墓標には「カナリヤ」と彫られていた。ネイル・ハートが額に釘を打ち付けて殺してしまった、あの少女のものだった。彼はその前に崩れ落ちるようにひざまずくと、涙をぼろぼろとこぼしながら、何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝った。それで赦されるとは思っていなかったが、とにかく、そうせずにはいられなかった。できればずっと、そうして謝っていたいような気分だった。だが、誰かに見られるのが怖くなり、彼は、しばらくすると持ってきた花を墓標の前にそっと飾り、その場を離れた。そして自分の部屋に引き返すと一日じゅうカナリヤのことを思いながら泣き通し、いつしか泣き疲れて、眠りに落ちてしまった。

 ルーパスとアイーダは、息子の部屋から物音のひとつもしないので、心配そうに聞き耳を立てていた。ドアを開けてみればまた息子の姿が消えてしまっているようで、怖くて様子を見に行くことができなかった。だがやがて、何杯目かのコーヒーがすっかり冷め切ったころ、かすかに物音がすると、続けて階段を降りてくる足音が聞こえた。ふたりはほっと安堵のため息をついた。

 だが、ドアから入ってきたネイル・ハートを見て、ふたりとも驚かずにはいられなかった。また新しい釘が、息子の額に突き刺さっていたからだった。だがふたりはすぐに我を取り戻すと息子を抱きしめて「だいじょうぶだよ。だいじょうぶ」と声をかけた。そして、アイーダが息子の頭を床で押さえつけながらもう片手で優しくなで、ルーパスがかなづちを持ってきて、また釘を打ち込んだのだった。

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