私の仙台散歩2

 仙台に引っ越したばかりの頃、林真理子さんに「仙台って、あんまりおいしいもの、ないんじゃない?」と言われ、「いえ、こんなものもあります!」とは、即座に言えなかった。

 ふり返ってみれば、私のこれまでの食いしん坊人生のなかで、「おいしかったもの豪華部門」のベスト3は、すべて林さんにごちそうしてもらったものだ。

 第三位、ジョエル・ロブションのフルコースディナー!第二位、富麗華の上海蟹!!第一位、京味の「はものしゃぶしゃぶ」!!!こうやって書いているだけで、よだれが出そうな思い出ばかり。

 一時期、朝日新聞の書評委員を、林さんとご一緒していたことがある。帰る方向が同じだったものだから、月に二度は林さんとハイヤー相乗りという機会に恵まれた。で、林さんいわく「あなたは、食べることの誘いだけは、断らないわねえ」。ハイ、そのとおり。だって、林さんの行くところ、おいしいものが山積みなんですもん。お誘いがあれば、万難を排して馳せ参じていた。

 名物にうまいものなし、とはよく言われることだが、仙台の場合、牛タンだって笹かまだって、そこそこおいしい。が、牛タンの産地はといえば、ほとんどがニュージーランドかオーストラリアだし、魚の保存技術がものすごく進歩した現代にあっては、練り製品であるかまぼこの地位は、一般的に高いとはいえない。

 でも、それぞれ逸品と思えるものは、ある。牛タンでいえば「芯タン」とか「極み」とか(これは牛タン屋さんによって呼び方がいろいろある)言われる部位。要するに、ウシ君のベロの付け根の方だ。ベロの先は肉自体が細いし、べろべろ使っているから、どうしても筋肉質で硬くなる。対して、ベロの奥は、太くてやわらかい。一本の牛タンから数センチしかとれないとも言われ、かなりの貴重品である。

 これ、炭火で焼かれて出てきたら、私でもマジでどんぶり飯いけます。ステーキかっていうぐらい厚いのだが、口にふくむとじゅわーっと肉汁がこぼれ、噛み切れるぐらいのやわらかさ。でも、噛みごたえも、いい具合には感じられる。使われていない部位とはいえ、そこはベロですから、ほどほどには動いていると思われ、お腹の贅肉(霜降り)とは違い、なんというか肉の味に深さがあるような(気がする)。

 笹かまのほうは、私は近所に本店のあった「阿部」という店をひいきにしているのだが(残念ながら、その店舗は去年で閉店。でもデパ地下や駅には店があります)、しっかりと魚の味がするかまぼこは、幼い息子のおやつにもなっている。意外と知られていないのが、阿部の「なると」。これは限られた店舗でしか扱われていないのだが、ああ、なるともかまぼこの仲間だったんだ、魚から作られているんだ、と妙に納得させられ、しかもあとをひくおいしさがある。ピンクのぐるぐる模様が、ちょっと手作業っぽい感じなのも好き。本店が閉鎖してから、一番町店に阿部の笹かまを買いに行くようになった私だが、当初は、この「なると」は置いていなかった。が、ある時期から、近くの蕎麦屋の名店が、ここのなるとを使うようになり、店舗でも売られるようになったという次第。これは、息子のお弁当の隙間要員としても、愛用している。

 ちなみに、先ほどから私が閉店を惜しんでいる「本店」だが、ここはほんとうによい店だった。電話で申し込めば、笹かま作りの体験を無料で(!)させてくれるので、友人が来たときには、必ず利用していた。全国からの修学旅行生なども数多く受け入れていたらしい(秋の修学旅行シーズンになると、店のお姉さんたちが、やや疲れた表情をしていた)。笹かまの歴史を語るビデオを見たあと、実際に魚のすり身を、笹の葉状にして、棒にくっつけ、焼くところまでやらせてくれる。焼きたての笹かまの、香ばしさといったらない。店の庭には、大きな池があり、鯉たちが優雅に泳いでいた。仙台名物のジャズフェスティバルの会場としても利用されていた。

 そのような良心的な活動の数々が、不況の波には耐えられなかったのだろう。市内の一等地にある店だけに、リストラの対象になってしまったようだ。

 さて、今回は、「仙台のうまいもんは、牛タンと笹かまだけじゃあないよ」ということを書こうと思っていたのだが、牛タンと笹かまを素通りすることができず、えんえんと書いてしまった。もうついでだから記しておくと、仙台市内の牛タン屋さんで、一番ロケーションがいいのは、青葉城址にある「伊達の牛たん」だと思う。ここの二階の奥にある掘りごたつっぽい座敷に陣取れたら、最高だ。牛タンを味わいながら、青葉城の青葉を、目にしみるほど楽しむことができるだろう。ただ、観光地ということもあり、予約ができない。土日なら、開店とともに二階に駆け上がるか、平日の、食事時をはずして訪れるか、がおすすめだ。

 では、いよいよ次回、仙台の意外なうまいもん、について書きたいと思います。林真理子さんの食指が動くかどうかはわかりませんが、乞うご期待。

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