- 俵 万智
- 2010-02-01 (月)
- エッセイ
仙台に住みはじめて三年あまりになる。昔からの住人ですというほどでもないし、かといって旅人の視点は、もう持てないような気もする。そんな自分にとっての、気になる仙台、好きな仙台、不思議な仙台……などなどを、今のうちに書いておこうと思う。たぶんそれは、五年後十年後には、書けないことだろうから。
東京から友人が来たりすると、必ず連れて行くところがある。定禅寺通りにある仙台メディアテークだ。建築家の伊東豊雄の代表作で、その方面に明るい人なら顔を輝かすこと間違いなしの建物だ。
仙台市の図書館が入っているほか、展覧会のできるスペースや、ちょっとしたシンポジウムなどができるスペースがあり、映画の上映会なども催されている。
一階のショップは、なかなかアートな品揃えで、しゃれたミュージアムグッズや、マニアックな雑誌のバックナンバーなんかが置いてある。大橋歩さんの「アルネ」とか、私もよく買った。扱っているカードもおしゃれで、私にとって必需品であるサンキューカードは、ここで仕入れている。
以前、東京は六本木ヒルズの森美術館に、友人の作品を見に行ったとき、帰りに立ち寄ったミュージアムショップで、メディアテークでいつも買っているカードがずらりと並んでいるのを見つけた。別に張り合うこともないのだけれど、「おお、六本木ヒルズと同じセンスの人が、メディアテークの仕入れをしているということか」と、なんだか胸を張りたくなってしまった。
私が通っている美容院は、このメディアテークの隣にある。その白い建物は、メディアテーク建築中、事務所として使われていたものだそうで、オーナーの佐藤さん(私の髪を切ってくれている人)も、なかなかアートに詳しい。「アトリエパドクヮ」というその美容院の看板の緑色は、ル・コルビジェのなんとかいう作品に使われている緑と同じ色なのだそうだ。
定禅寺通りは一年中美しいが、十二月になると欅並木がライトアップされて、なんともいえない幻想的な雰囲気になる。車の通る道の他に、まんなかに人の歩く道があるので、ライトアップされる並木が合計四列。この迫力は、表参道とかの比ではない。
佐藤さんによると、メディアテークが消灯され、しかも並木がまだライトアップされている午後11時からのひとときが、最高らしい。ガラス張りのメディアテークが鏡のようになり、そこにライトが反射して、幻想が二倍になるという。息子がまだ小さいので、残念ながら私はまだ、その「二倍幻想」を見たことがない。
さて、メディアテークで忘れてならないのが、一階のショップの奥にあるカフェである。一見、何の変哲もない、こざっぱりした喫茶空間なのだが、ここ、なぜかベルギービールが充実しているのだ。メニューを見れば、フランボワーズからはじまって、ひととおりの瓶ビールが揃っている。さらに、私が愛してやまないヒューガールデンという小麦から作る白ビールの「生」が通年で置かれている。公共の施設で何故ここまで!? と思わずにはいられない、もうまったく謎としか言いようのない充実ぶりだ。午後四時以降にここにいるときは、何が何でもヒューガールデンの生、と決めている。ついでに、生ハムとかフリッターとか、ちょとしたおつまみも、安くて美味。テーブルに飾られているオジギソウを、つんつん指でつついたりしながら、ヒューガールデンを飲み干せば、じんわりと幸せが広がってくる。
これは私だけの印象なのかもしれないのだけれど、仙台では、おいしいビールに出会う機会が多いような気がする。たまに行く和食屋「あら井」では、ゑびすビールの「琥珀」というのが置いてあるし(まったり深い味わいです)、ちょっとしたバーでもギネスの注ぎ方が上手なことが多い。それからね、今年の正月、私は家族で秋保温泉に泊まっていたのだが、朝食のバイキングってあるじゃないですか。その片隅にコーヒーとかジュースに並んで、生ビールのサーバーがあったとですよ!!(なぜか九州弁で)
きゃしゃなグラスをそこに置いてスイッチを押せば、ぎゅーんとグラスが斜めになり、静かにビールが注がれ、仕上げに別の管から、ご丁寧に蓋をかぶせるように泡が出てくる。これ、バイキングの一部ですから、もちろん料金はとられない。朝から何回、そのサーバーの前に立ってしまったことか。
おそらく、正月ゆえのサービスではあろうが、それにしても嬉しすぎるできごとだった。
書いているとキリがなくなってくるが、最後にもう一つ。錦町公園という仙台駅にほど近い公園があるのだが、そこでは毎年「オクトーバーフェスト」というビールの祭りが開かれている。ドイツミュンヘンで行われる世界最大のビールの祭典を、同様に仙台でも、ということらしい。
ドイツの民族衣装を着た人たちの野外演奏など聴きながら、十種類はあるドイツビールが飲める。グラスも、陶器のものとかガラスの靴の形をしたものだとか、なかなか本格的。ソーセージなどの屋台もたくさん出て、ビール好きにはたまらない行事となっている(ちなみに、本場ミュンヘンにはない、銀河高原ビールとか牛タンの串焼きとかも楽しめます)。秋といえば仙台はもうかなり寒く、私が行ったときも、何回かは小雨の降る底冷えのする夜だった。それでも、野外でビール。ここに集う人たちが、仙台のビール文化(?)を支えているのかもしれない。
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