- 明川 哲也
- 2011-03-28 (月)
- 詩
2011.3.28 @ asakua
世界を征服するような悪人になってはいけないと
父は言った。
でも、父さん、どこもかしこも世界の一部で、
自動車工場やデパートや、
立ち蕎麦屋なんかも一種の世界だろう。
そうだ、と父は言った。
それなら、父さん。
工場長やデパート長や蕎麦屋の店長なんかも悪人だね。
世界を我が物顔にしているからさ。
なるほど、と父は鈴を鳴らした。
靴が光っている奴のみならず、支配する者はみな悪だ。
我々はほんの一瞬、ここにいるだけなのだから。
それなら、父さん。
世界を牛耳っているつもりの天上の力が一番の悪だね。
誰もが祈るあいつさ。
その通りだ、と父は太鼓を叩いた。
一度この世に生まれし我らを滅びの恐怖に陥れる。
時には、罪のない子にすらその手をかける。
それなら、父さん。
父さんという存在も、ボク自身も、
そいつを肯定してここにいるってことは、悪に他ならないね。
父さんは高笑いをした。空が割れるほどに。
「ならばこの舟で、二人の命が果てるまで漂っていよう」
父さん、それは違うよ、とボクは言った。
始めからボクらは舟に乗っているじゃないか。
ただそれが見えていないだけじゃないか。
こんな茶番の舟に乗らずとも、
漂うことさえ許されない、その足下の舟にさ。
父さんは目を瞬かせながら、
おお、お前、息子よ、と言った。
そこまでわかっているなら、残りの日々をどうやって生きていくつもりなのかと。
ボクは百年前から言いたかったことを、そこで初めて漏らした。
少し、子供でいさせてくれよ。
せめてこの舟に酒を積み込む日までは。
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